断頭台より



 ばちばちと脳が灼き切れる音がする。イヤーモニタ―が外れてしまわないように、袖にはけたタイミングで一度付け直す。会場の音がぼわぼわと鳴っているのを意識の端に捉えて、ぼうっと水を飲んでいたら背中を軽くたたかれた。行くぞ、と低く甘い、高揚に満ちた声。燐音は一目散に光の中へ飛び出していく。続いてHiMERUが、ニキが。こはくも水をスタッフに渡してステージに戻る。アンコールだ。熱気が膨張して会場の隅々までめいっぱい広がっていく。汗でマイクが滑り落ちてしまいそう。スポットライトの中央、一挙手一投足ぜんぶで客を煽る燐音が、右端でカメラを抜くニキが、左端で客席にレスをするHiMERUが、こはくの視野できらきらと光っている。まるでパノラマのよう。何故こんなにも視界が開けているのか不思議だった。
 ―― ああこれ、ゾーンっちやつやろか。
 めずらしく振り付け以外で自分から寄ってきたHiMERUとハイタッチをして、そのまま肩と腰にお互い手を回してユニゾンで歌う。割れんばかりの歓声。悲鳴。声、声、声。おおきな団扇と、メンバーカラーのサイリウム。音で地面がぐらぐら揺れて、限界なのに身体が軽い。感覚が馬鹿になっている。きらきらの弾丸に真上から撃ち殺されて、細胞がまっさらになったみたい。終わりたくないなぁ。終わりたくない。たのしい。うれしい。きもちいい。しあわせ。しあわせだ。人生でいちばん。これ以上のことなんて、きっとない。それはとても、かなしいことだ。さみしいことだ。つらいことだ。それでも、今日の思い出だけで、こはくは満足だ。これだけできっと、安心して、死ぬまで生きていける。気を抜くと泣いてしまいそうだった。ああ、泣きそうだ。泣きたくない。それなのに、何故。燐音がすれ違いざま抱きついてきて、こはくの身体を客席から隠すようにぐるりとまわした。汗臭いわボケと腹にこぶしを当てて距離をとると、にやにやした顔で頬を乱暴に拭われた。それだけでもう、駄目だった。ぼろりと決壊した涙腺をそのまま、わんわん声をあげて泣いてしまって、せっかくの気遣いを台無しにした。ぎょっとした燐音が次のときには仕方ないと笑い、こはくを抱き上げてそのまま見世物にしてしまう。降ろせ降ろせと肩を叩いても、アンコールだし、別に良いっしょと言って、聞いてくれない。良い訳あるか。ステージの逆側で歌っていたHiMERUが寄ってきてこはくの背を撫でて、そのまま燐音と器用に合わせの振りを入れる。ニキが殆ど歌えていないこはくのパートをアドリブでカバーしてくれていた。こはくはセンターステージのど真ん中で降ろされて、顔をごしごしと拭いながら最後のパートを歌った。最近では一番、酷い出来だった。ニキが最後までいっしょに合わせて歌ってくれて、客席も応援してくれて、最後のポーズを皆で合わせるのが恥ずかしくて仕方なかった。