ゆめのさき


「夢の先ではよくあることだ。君の願いは叶うかもしれないし、叶わないかもしれない。君は君自身の願いと欲望の奴隷。諦めることが、できない限りね」

 わかっているだろう?
 謡うような調子で演説し、天祥院英智は微笑んだ。本日の聴衆はたった一人、同じ紅茶を啜る凛月だけだ。よく飽きもせず夢の話ばかりできるよねぇと、凛月はとっくに飽きているので、寝落ちして紅茶をひっかぶらないよう、細心の注意を払っている。天使のようだとも、悪魔のようだとも評される、ただの病弱な青年は、いつだか、夢で出遭った獏を彷彿とさせる。足りない足りないと、他人の夢も希望も食べてしまう。獏は悪夢を食べるだけとも聞くから、彼より善性は強いのかもしれないけれど。そうして事実、他人の夢を食べて、与えて、壊して、作り直して、そうして大きくなった城で、宝物を世界中に見せびらかしているような男が彼だった。修羅を身の内に飼い慣らしながら、たまに木枯らしのような悪い咳をして、冗談ではなく、命を賭けて。

「わかってるよ、エッちゃん」

 わかっている。そうだねぇ。エッちゃんがそう言うなら、そうなんだろうねぇ。了承はしていないし、納得もしていないけれど頷く。彼の大切な命に、敬意を払って。だってほら、人間はすぐ死んでしまうから。あと眠い。とても眠たい。凛月が受け入れたと都合良く解釈して、彼はいつも、白くてやわらかい、無垢な少女のように微笑む。




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